消えていくものを、残すために――なぜ『薔薇族』と山川純一作品を扱うのか
「なぜ『薔薇族』や山川純一作品を扱っているんですか」
上記のようなことをたまに聞かれる。
ヴィヴァルディ・インクは、Web制作やSEO、メディア支援を主な仕事にしている会社だ。その会社が、半世紀以上前に創刊されたゲイ雑誌を電子化し、1980年代に描かれた成人向け漫画の権利管理をして、フィギュアまで作っている。
並べてみると、あまり脈絡がないが、自分の中では、どれも同じ仕事をしているつもりでいる。
理由は単純である。残しておかなければ、読めなくなるからだ。
『薔薇族』は1971年に創刊された、日本初の男性同性愛者向け商業雑誌とされている。LGBTという言葉が一般に使われるようになる、はるか以前のことだ。
誌面には漫画や小説のほか、悩みや、出会いを求める声、社会に向けた主張が載っている。その時代に使われていた言葉も、そのまま残っている。日本の男性同性愛者が、どんな時代を生き、何を考え、どんな言葉で自分たちを語ってきたのか。それを知るための資料でもある。
紙の雑誌は、残っているだけでは読めない。古書市場に出てくる号は限られている。保存状態もまちまちだ。存在を知っていても、手に取る方法がない人のほうが圧倒的に多い。物が存在していることと、文化が残っていることは、同じではない。だから電子化を始めた。
創刊号から20号までは、伊藤文學さんの知人である当事者の方々が、有志で寄付してくれたものだ。それ以降は、手に入った号から順に配信していった。号数は飛び飛びになったが、配信した号は、50近くになる。
インターネットがある限り、昔より多くの人が読める。けれど、そんなに簡単ではなかった。この活動に、世の中は理解をしてくれる。そう信じていた。
でも、2025年1月、Amazonで配信していた電子版がある日一斉に止まった。理由は「アダルト色が強すぎる」だった。それ以上の説明もなく、アカウント自体が停止し、以降僕個人を含めてKindleではアカウントを作ることすらできなくなってしまった。まるで大罪を犯したような扱いだ。
その後、FANZAをはじめ他のプラットフォームにもかけあった。いまのところ受け入れてくれる場所は見つかっていない。仕方なく自分たちで読める場所を作ることも、考え始めている。
文化を残すというのは、スキャンしてデータにすれば終わりではないらしい。権利を整理し、配信できる形を作り、プラットフォームの規約と折り合いをつけ、読みたい人のところまで届ける。そこまでやって、ようやく残したことになる。
山川純一の作品が載っていたのも、その『薔薇族』だった。
代表作の『くそみそテクニック』は、インターネットミームとして知っている人のほうが多いかもしれない。
「やらないか」
その一言だけが一人歩きして、原作を読んだことのない人まで主人公・阿部高和を知っている。ミームとして広まる過程には、これらを笑いものにするような消費も混ざっていた。しかし、原作を読むと、そこには別の山川純一がいる。独特の台詞回しと間、妙に乾いたユーモア。作品そのものを読んでもらわなければ、伝わらないものだ。
問題になったのは、オリジナルが成人向け漫画であることだった。成人向けである以上、売れる場所も、宣伝できる場所も、作れる商品も限られる。
入口を増やせないか。それで至った答えが、全年齢版だった。
18禁の原作は原作として残す。そのうえで性的な表現を調整し、これまで作品に触れられなかった人にも、山川純一という漫画家を知ってもらう。入口をもう一つ作るためのものだ。
その後、アニメ化があり、フィギュア化があった。2026年には阿部高和の再フィギュア化が決まり、全年齢で読める新しい漫画の企画も進めている。
成人向け作品から始まったコンテンツが、形を変えて広がっていくのは珍しい話でもない。
『Fate/stay night』の原作は、18歳未満購入不可のPCゲームだった。そこから家庭用ゲーム、テレビアニメ、劇場アニメ、スマートフォンゲームへと展開し、いまでは世界中に知られるシリーズになっている。
面白いものを作っていた人が、別の場所でも面白いものを作る。ある場所で生まれた作品が、時代に合わせて別の形になる。それだけの、極々自然な話でもある。
だが勘違いしてほしくないのは、山川純一作品を、『Fate』のような巨大なシリーズにするつもりはない。山川純一作品らしく残っていけばいいと思っている。1980年代の成人向け雑誌に載っていたというだけで、新しい読者と出会う可能性まで閉じてしまう必要もない。
普段ヴィヴァルディがやっているWebの仕事も、実はこれとあまり離れていない。良い記事を書いても、検索されなければ読まれない。価値のあるコンテンツも、サイトの構造が悪ければ見つけてもらえない。古書の棚の奥で眠っている一冊は、多くの人にとって、存在していないのと同じだ。コンテンツと、それを必要としている人の間に道を作る。
SEOも、Web制作も、電子出版も、そしてIPの展開も、やっていることは同じだ。
次の人が手に取れる形に変えていく。それも残すということだと思っている。
ヴィヴァルディ・インクでは、次のような相談を受け付けています。
- 休刊誌や絶版作品の電子化
- 成人向け作品を含むIPの全年齢展開
- 権利の整理や、グッズ化などの商品化
眠っている雑誌や作品をどうにかしたい権利者・出版社の方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
『薔薇族』電子版の配信について話せるプラットフォーム事業者の方からのご連絡も、お待ちしています。
